神奈川県三浦市で特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人皇寿会。年々深刻化する人材不足を背景に特定技能外国人の受け入れをスタートさせました。「なぜ今このタイミングで外国人材を受け入れたのか?」「外国人材を受け入れたことで組織にどのような影響があったのか?」「外国人材定着のために必要なことはなんなのか?」採用から入社後の支援まで幅広く対応されている施設長の藤田様と介護長の吉村様にお話を伺いました。介護福祉士取得を目指している人材だから、みな意欲的で向上心が強い特定技能外国人を受け入れたきっかけを教えてください。藤田様:きっかけは、慢性的な人材不足です。もう随分前から介護施設は人手が足りない状況が続いており、今後さらに採用が困難になるのは間違いないので、早めに手を打とうと思いました。ここ数年、日本人の採用は人材紹介会社経由がメインになっていたのですが、1名採用するのに120万円くらいかかります。しかも、せっかく採用しても1年も経たずに退職、ということが頻繁にあるので採用コストに見合った成果が出せていませんでした。そういった状況を打開するために特定技能の活用を考えました。ちなみに、今は、日本人も従業員からの紹介とインスタグラムで集めらるようになってきていて、年間5~6名くらいはインスタグラム経由で応募いただいています。外国人材受け入れに反対の声はありませんでしたか?藤田様:ありましたね。外国人材を受け入れると「看板が汚れる」と考えている人が少なからずいるのですが、私から言わせれば、介護施設が生き残るために外国人材の受け入れは避けては通れない道です。10年後の施設運営を考えた時に必要なことと判断して踏み切りました。実際に受け入れてみていかがですか?藤田様:全員タイ人なのですが、基本的にハングリー精神が旺盛な方が多く、想定してたよりも成長スピードが速いです。受け入れ時は反対もありましたが、実際に一緒に働く中で「入社してくれて良かった」という声が主流になってきました。働きぶりについては、人間ですから、みなそれぞれ個性があります。大雑把な方もいれば几帳面な方もいるし、ドライな方もいれば利用者様に感情移入する方もいます。それは別に外国人だからということではなく、個々人の性格の違いですね。ただ、大前提して、私たちの施設では、介護福祉士取得を目指していることを特定技能外国人の採用条件としているので、日本人と比べても意欲的で向上心が強い方が揃っているのかなとは感じています。吉村様:受け入れ前は私も不安でしたが、実際に一緒に働いてみて、それほど文化や風習の違いで困ることはありませんね。意欲の高い人材を採用できているということですが、その他に特定技能外国人を採用して良かったことはありますか?藤田様:人材不足解消というのももちろんなのですが、日本人従業員がタイの文化について興味を持って、コミュニケーションが促進されたのが良かったですね。この前も暑気払いでタイ料理を食べるという企画をしたばかりです。日本人同士だと50歳代従業員が20歳代従業員と仲良くなるということはあまりないのですが、なぜかタイ人の若手従業員が相手だと、日本人従業員が娘のようにかわいがって、「一人暮らで大変だろうから」と買い物に連れて行ったりするんですよ。特定技能外国人の方が入社して、間違いなく従業員同士の交流が活発になりました。吉村様:職場の雰囲気は変わりましたよね。現場を見ていて、愚痴が減ったというのを感じています。日本人だけだと、どうしても愚痴が多くなるのですが、特定技能の方は愚痴をこぼさないですし、日本人も特定技能の方を相手に愚痴や噂話はしにくいんですよ。人材不足解消の他にも予期せぬ効果があったということですね。逆に特定技能外国人の受け入れで苦労したことや対策があれば教えてください。吉村様:外国人だから苦労したというのはあまりないですね。日本人でもトラブルは起こりますから。藤田様:そうですね。言葉の問題で苦労すると思いましたが、想像以上に日本語を話すことができていて助かっています。ただ、日本人側が話す時に「ゆっくりと端的に話す」ということは意識していますね。また、LINEでグループをつくってテキストでもコミュニケーションがとれるようにしています。他にも、苦労ではないのですが、人材に定着してもらうために労働環境の整備には力を入れています。特定技能外国人はSNSで大量に全国各地の求人情報に触れていますから、給与や待遇を比較して良い条件の施設があったら当然転職してしまいます。そういった比較にさらされる中で、私たちの施設に定着してもらおうと思ったら「納得できる給与」「住環境の確保」「メンタル面のサポート」などできることはなんでもやって、「働きがいのある職場」を整備し続けることが大切になってきます。業務以外の生活全般をサポートすることも欠かせませんね。吉村様:私は主に業務面でのサポートをしているのですが、現場では、協力ユニットといって、日本人と特定技能外国人が必ずペアを組んで動くようにしています。利用者様のご家族への連絡や報告は日本人が担当し、なにかトラブルがあった時も必ず日本人が対応できるようにしているんです。あと、女性メンバーが多いので、「男性の施設長に直接言いにくいことは私に相談してください」とお伝えしています。日々の生活に問題があると仕事もうまくいかなくなると思うので、生活の相談にも乗ることが働きやすい環境づくりに繋がると考えています。藤田様:せっかく日本を選んで来てくれた方々なので、できるだけのことはしたいですよね。面接時に「休日はどこにもでかけない」みたいに言う方が多くて、かわいそうだなと思っていたんですよ。ただ、うちに入社してからは、「東京に遊びに行った」とか「海に行った」とか報告をしてくれるようになったので、嬉しいですね。吉村様:給与が上がって、遊びに行く余裕ができたというのもあるかもしれません。家と職場の往復だけではしんどいですから。今は、遊びも満喫して、笑顔で働いてくれているので、私たちとしても安心しています。特定技能外国人の紹介会社は「怪しい」「怖い」というイメージがあった施設内でも手厚く支援をされている印象を受けましたが、弊社のような登録支援機関にはどのようなことを求められますか?藤田様:私たちは、かなりの熱量を持って人材に接しているので、同じ熱量で向き合ってほしいです。人材を紹介して終わりではなく、入社後も私たちと人材の間に入ってサポートしてくれる存在を求めています。その点、リフトさんは、日本人の担当者さんだけでなくタイ人スタッフの方が通訳や翻訳のサポートをしてくれるので、とても助かっています。いろんな紹介会社さんや登録支援機関さんから営業を受けますが、今のところ私たちは、リフトさん以外とお付き合いをしようとは思わないですね。紹介料もかなり良心的ですし。もともと、特定技能外国人の紹介会社さんや登録支援機関さんって、ダークというか「怪しい」「怖い」というイメージがあったんです。海外で経営している学校に求職者を騙して入学させて借金漬けにしてから日本に送り出す、みたいな笑。ただ、リフトさんは既に日本国内にいる経験者のみを紹介してくれる、ということだったので安心してお願いできました。ありがとうございます。最後に、外国人材を活用した今後の組織の展望について教えてください。藤田様:特別養護老人ホームの経営には、介護報酬に加えて「加算」が重要です。その加算を取得するためには介護福祉士の配置が欠かせません。しかし、これから10年後、人材不足が加速し、介護福祉士の採用がますます困難になるのは明白です。ですから、私たちは、その時を見据えて今から「外国籍の介護福祉士」の育成に取り組んでいます。まずは、今在籍している特定技能外国人を時間をかけて育成し、全員が介護福祉士を取得できるように支援していきます。吉村様:現場としては、少なくても1人くらいはリーダーを輩出したいです。介護福祉士取得に加えて、高いレベルの介護技術を持っていること、他メンバーから信頼されていること、などリーダーになるための要件は高いですが、十分その素質を持っているメンバーが揃っていると思っています。藤田様:介護福祉士やリーダーになる外国人材が増えたら、その先駆者達の姿を見て後輩が育っていきますからね。そういう良いサイクルを確立して、日本人従業員しかいなかった頃と比較しても遜色のない水準の介護サービスを提供しつづけたいですね。